2012/08/06

2012/07/09

【文献】国立大学附属病院におけるGRM業務への医師・歯科医師参画の現状

【ソース】
南須原康行(北海道大学病院医療安全管理部)ら:国立大学附属病院におけるGRM業務への医師・歯科医師参画の現状 -医師GRMアンケートの結果より-.医療の質・安全学会誌7:133-141,2012.

【概要】

○2010年7月に、国立大学附属病院医療安全管理協議会所属施設42大学45病院に、GRMとして活動する医師・歯科医師(専従、選任、兼任問わず)を対象としてアンケート調査を実施。41病院より回答。

○医師GRMを配置する病院は41病院中22病院(53.7%)・27名。専従(医療安全管理業務割合80%以上) 10名、専任(同50%以上)7名、兼任(同50%未満。輪番制の病院は1名とカウント)10名。

○看護職GRMは全病院に配置されており、13病院では2名の看護師が配置されていた。

○薬剤師GRMは5病院で各1名ずつが配置されていた。

○医師GRM27名に対する意識調査結果(抜粋)
 ・医師GRMが必要と思う:23名、思わない:0名
 ・GRMはやりがいがある仕事だと思う:22名、いいえ:1名
 ・医療安全に係る仕事を続けていくつもりはある:18名、ない:4名
 ・臨床面での不安がある:15名、ない:7名
 ・GRMとしての業績や身分に不安がある:14名(うち専従4名)、ない:7名(うち専従4名)

○考察より抜粋

特に、80%以上の業務を医療安全管理に充てている専従医師GRMでさえ、半数が臨床面、将来について不安を感じながら仕事をしているという状況は認識されるべきであろう。

ほとんどすべての医師GRMが、医師GRMは必要であり、かつやりがいのある仕事と答えており、大多数の医師GRMが医療安全に関わる仕事を続けていくつもりがあると回答した。GRMという職種は、病院の上層部との意見の対立、特に医師であれば、他の医師との意見の対立などが生じることもあり、ストレスの多い仕事である。現役の医師GRMのほとんどが、医師GRMという職種を肯定的に考えているということは、今後医師GRMに就任する医師および設置を考える病院双方にとって意義のある結果と思われる。
 

【文献】カルテレビューによる有害事象の把握と追加的コストの推計の試み

【ソース】

天生目理香(国際医療福祉大学病院医療安全管理室)ら:カルテレビューによる有害事象の把握と追加的コストの推計の試み.医療の質・安全学会誌7:124-132,2012.

【概要】

○約200床のA病院(2006年7~12月及び2007年7~12ヶ月の12ヶ月分)で、全国のDPC病院における平均入院期間(2008年4月版)よりも入院期間が延長した予定手術症例患者(172名)に起きている有害事象(レベル3a以上)の発生状況を把握した。

○有害事象が生じていたのは23件(13.3%。看護師による1次レビューで172名中26名、医師による2次レビューで血糖測定忘れ1件、転倒2件が除外された)。

○発生した有害事象は29件。術後イレウス9件、術後感染9件、薬剤アレルギー1件、創部離開2件、術後出血1件、術後縫合不全1件、術後排尿障害2件、他科疾患の新規発生1件、眼圧上昇2件、褥創1件。

○うち21件(72.4%)の有害事象は予防可能性が高いと判断された。術後感染8件、術後イレウス8件、術後創部離解2件、褥創1件、術後排尿障害1件、術後縫合不全1件。

○有害事象発症例の追加的コスト総額は約350万円。有害事象1件あたり約17万円。

○考察より抜粋
今回の研究全体を通して、カルテレビューは有害事象の把握に有効な手段であることが確認された。その理由として、今回の研究で確認された医療過誤によらない大部分の有害事象に関しては、インシデント・アクシデントレポートによって報告されることは非常に少ないためである。実際、今回の研究で明らかになった有害事象に関するレポートは提出されていなかった。医療安全、さらに医療の質を保つためには自発報告だけでは把握されることのない有害事象を、医療安全および医療の質に関して責任を持った部署が正確に把握し、臨床の現場へフィードバックしていくことが非常に重要であると考える。


2012/05/15

【産科医療補償制度】第2回報告書公表。

【ソース】
産科医療保障制度:第2回 産科医療補償制度 再発防止に関する報告書


【要点など】

○補償対象となった児のうち、2011年12月末までに事例公表された79件(2009年出生76件、2010年出生3件。p36)を対象として分析実施。

○数量的・疫学的分析とテーマ分析(吸引分娩・常位胎盤早期剥離の保健指導・診療録記載)を実施。

○産科合併症(p23:表3-II-20)
  切迫早産25
  常位胎盤早期剥離 20
  子宮内感染 15
  子宮破裂 5
  臍帯脱出 5
  妊娠高血圧症候群 5
  妊娠糖尿病 2
  上記に該当なし 21

○分娩経過(p23:表3-II-21)
  経腟分娩 29
    正常分娩 16
    吸引分娩 11
    鉗子分娩  2
  帝王切開 50
    予定帝王切開 1
    緊急帝王切開 49

○臍帯動脈血pH(p30:表3-II-44)より
  検査実施なし 33
  検査実施あり 46
    7.1以上 14
    7.1未満 32

○吸引分娩について
  79例中19件で実施あり(うち12例はクリステレル胎児圧出法併用)。
  帝切術を要したもの 8件
  総牽引時間20分超 3件
  吸引回数6回以上 2件

○クリステレル胎児圧出法に関する提言(p50)

(3)クリステレル胎児圧出法の併用は、胎児の状態が悪化する可能性があることを認識する。
 クリステレル胎児圧出法は、数回の施行で分娩に至ると考えられるときのみ併用し、漫然と施行しないことが重要である。


 ○常位胎盤早期剥離の保健指導
  背景
   妊娠高血圧症候群 2
   蛋白尿 9
   切迫早産 11
   早産 6
   前期破水 1
   子宮内感染 1
   喫煙(うち妊娠中も喫煙)  5(2)
   出生時Light for datesであった児 1
   標準的でない妊婦健診受診 1
   上記に該当なし 1


  常位胎盤早期剥離の直接の原因は明らかになっていないが、常位胎盤早期剥離の予防のた
めに、その危険因子に関する様々な研究がなされており、「産婦人科診療ガイドライン-産科編2011」には、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産(前期破水)、外傷(交通事故など)が危険因子として記されている。その解説には、常位胎盤早期剥離の発症に関して、妊娠高血圧症候群に多いことや、常位胎盤早期剥離の既往がある妊産婦で10倍多いことなどが記載されている。その他、日本産科婦人科学会周産期委員会周産期登録事業の報告によると、妊娠高血圧症候群の妊産婦は常位胎盤早期剥離の発症率が4.45倍とされている。


○診療録の記載

1)産科医療関係者に対する提言
(1)「 産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項」を参考に診療録等を記載する。
(2) 特に、異常出現時の母児の状態、および分娩誘発・促進の処置や急速遂娩施行の判断と根拠や内診所見、新生児の蘇生状況については詳細に記載する。
 原因分析および再発防止が適正に行われるため、また医療安全の観点からも診療に関する情報が正しく十分に記載されることが重要である。一見して分娩経過が分かるように、パルトグラムに診療情報を記載するなど1ヶ所に全ての診療情報を記載する工夫も必要である。


※参考 p70

産科医療補償制度の原因分析・再発防止に係る診療録・助産録および検査データ等の記載事項
Ⅰ.診療録・助産録
1.外来診療録・助産録
1)妊産婦に関する基本情報
(1)氏名、年齢、身長、非妊娠時体重、嗜好品(飲酒、喫煙)、アレルギー等
(2)既往歴
(3)妊娠分娩歴:婚姻歴、妊娠・分娩・流早産回数、分娩様式、帝王切開の既往等
2)妊娠経過記録
(1)分娩予定日:決定方法、不妊治療の有無
(2) 健診記録:健診年月日、妊娠週数、子宮底長、腹囲、血圧、尿生化学検査(糖、蛋白)、浮腫、体重、胎児心拍数、内診所見、問診(特記すべき主訴)、保健指導等
(3)母体情報:産科合併症の有無、偶発合併症の有無等
(4) 胎児および付属物情報:胎児数、胎位、発育、胎児形態異常、胎盤位置、臍帯異常、羊水量、胎児健康状態(胎動、胎児心拍数等)等
(5)転院の有無:転送先施設名等
2.入院診療録・助産録
1)分娩のための入院時の記録
(1) 母体所見:入院日時、妊娠週数、身体所見(身長、体重、血圧、体温等)、問診(主訴)、内診所見、陣痛の有無、破水の有無、出血の有無、保健指導等
(2)胎児所見:心拍数(ドプラまたは分娩監視装置の記録)、胎位等
(3)その他:本人・家族への説明内容等
2)分娩経過
(1) 母体所見:陣痛(開始時刻、状態)、破水(日時、羊水の性状、自然・人工)、出血、内診所見、血圧・体温等の一般状態、食事摂取、排泄等
(2)胎児所見:心拍数(異常所見およびその対応を含む)、回旋等
(3) 分娩誘発・促進の有無:器械的操作(ラミナリア法、メトロイリーゼ法等)、薬剤(薬剤の種類、投与経路、投与量等)等
(4)その他:観察者の職種、付き添い人の有無等
3)分娩記録
娩出日時、娩出方法(経腟自然分娩、クリステレル圧出、吸引分娩、鉗子分娩、帝王切開)、分娩所要時間、羊水混濁、胎盤娩出様式、胎盤・臍帯所見、出血量、会陰所見、無痛分娩の有無等
 
4)産褥記録
母体の経過:血圧・体温等の一般状態、子宮復古状態、浮腫、乳房の状態、保健指導等
5)新生児記録
(1) 新生児出生時情報:出生体重、身長、頭囲、胸囲、性別、アプガースコア、体温、脈拍・呼吸
等の一般状態、臍帯動脈血ガス分析値※注、出生時蘇生術の有無(酸素投与、マスク換気、気管挿管、胸骨圧迫、薬剤の使用等)等
※注:個別審査対象の児に必要であり、他の児についても検査することが望ましい。
(2) 診断:新生児仮死(重症・中等症)、胎便吸引症候群(MAS)、呼吸窮迫症候群(RDS)、頭蓋
内出血(ICH)、頭血腫、先天異常、低血糖、高ビリルビン血症、感染症、新生児けいれん等
(3)治療:人工換気、薬剤の投与(昇圧剤、抗けいれん剤等)等
(4) 退院時の状態:身体計測値、栄養方法、哺乳状態、臍の状態、退院年月日、新生児搬送の有無、搬送先施設名等
(5)新生児代謝スクリーニング結果
(6)新生児に関する保健指導
3.その他
分娩経過表(パルトグラム)、手術記録、看護記録、患者に行った説明の記録と同意書、他の医療機関からの紹介状等
Ⅱ.検査データ
外来および入院中に実施した血液検査・分娩監視装置等の記録(コピー可)




2012/03/29

【判例レビュー】債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟の損害の範囲と弁護士費用(労働災害事案)

【ソース】
平成24年02月24日最高裁判所第二小法廷判決

○要旨引用

 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって,労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。

 そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

 したがって、労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである


【コメント】

医療過誤訴訟においても、不法行為構成と診療契約上の債務不履行構成の二通りがあり得ます。

上記判例は労災事故に関するものではありますが、医療過誤訴訟を債務不履行構成に基づいて提起する場合(不法行為構成では消滅時効にかかる場合等)の弁護士費用の扱いについても、あてはまる部分が大きいものと考えられます。

ただし、医療過誤事件における患者側の主張立証責任の重さに照らした場合、債務不履行構成の下でも、不法行為構成の場合と同等の主張立証責任を負う結果となることが妥当なのかどうかについては、患者代理人の側から絶えず問題提起をしていく必要があると考えています。


【参考判例】

昭和44年2月27日最高裁判所第一小法廷判決
(根抵当権の不存在につき少なくとも過失により競売の申立をしたことは不法行為を構成するとして損害賠償を請求した事例)


○要旨引用


 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の 余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者 に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。

 従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利 を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一 般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。

 そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行 を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、 右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。


 

【事故報道】呼吸補助装置の酸素ボンベの開栓を怠り酸素供給途絶。直後に患者死亡。所轄署への連絡は6日後。

【ソース】
京都新聞:酸素供給ミス直後に患者死亡 山科の病院 6日後、警察に相談 

【要点】
  • 2012年3月20日午前3時半ころ、愛生会山科病院に肺炎で入院中の70歳代女性に装着された呼吸補助装置のアラーム(ボンベ酸素残量)が鳴り、業者による復旧作業が行われたが、午前4時34分に患者死亡が確認された。
  • 同月19日に業者が酸素漏れの修理を行った際、終了後の開栓を怠った。
  • 病院は業者から不備ありとの報告書を受領したとのこと(※記事では受領時期は不詳)。
  • 同月26日、病院は山科署に事案を電話相談。それ以前の届出なし。
  • 病院コメント「患者は重篤な状態で亡くなったことに違和感はなかった。明確な異状死とは判断していないが、弁護士から医師法に基づき報告した方がいいと言われた」
  • 2012/03/29現在、同病院のウェブサイトに本件の情報なし。
【コメント】

報道されている限りの事実が前提であれば、酸素投与を要する患者に装着された機器の酸素ボンベが、誤って閉栓されたままとなっており、その状態の下で患者が死亡したことになりますので、死亡後速やかに(遅くとも業者からの報告を受けた直後に)医師法21条に基づき所轄の警察署に届出を行うべきケースだったのではないかと考えられます。

日本学術会議が医療関連死の届出先となるべき第三者機関創設を提言してから6年以上が経過しますが、未だに第三者機関創設には至っていないことが、最大の問題と言えます。

【参考資料】

医師法

 第二十一条  医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

第三十三条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
 第六条第三項、第十八条、第二十条から第二十二条まで又は第二十四条の規定に違反した者 
 
 
【要旨1】
医師法21条にいう死体の「検案」とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当として是認できる。
 
【要旨2】
死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,本件届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。 
 

 ===以下引用(下線は引用者による)===
3 提言の内容

1)届け出るべき異状死体及び異状死
 

(1)一般的にみた領域的基準
異状死体の届出が、犯罪捜査に端緒を与えるとする医師法第21 条の立法の趣旨からすれば、公安、社会秩序の維持のためにも届出の範囲は領域的に広範であるべきである。すなわち、異状死体とは、
① 純然たる病死以外の状況が死体に認められた場合のほか、
② まったく死因不詳の死体等、
③ 不自然な状況・場所などで発見された死体及び人体の部分等も
これに加えるべきである。
 

(2)医療関連死と階層的基準
いわゆる診療、服薬、注射、手術、看護及び検査などの途上あるいはこれらの直後における死亡をさすものであり、この場合、何をもって異状死体・異状死とするか、その階層的基準が示されなければならない。
① 医行為中あるいはその直後の死亡にあっては、まず明確な過誤・過失があった場合あるいはその疑いがあったときは、純然たる病死とはいえず、届出義務が課せられるべきである。これによ
り、医療者側に不利益を負う可能性があったとしても、医療の独占性と公益性、さらに国民が望む医療の透明性などを勘案すれば届出義務は解除されるべきものではない。
② 広く人の病死を考慮した場合、高齢者や慢性疾患を負う、いわゆる医学的弱者が増加しつつある今日、疾患構造の複雑化などから必ずしも生前に診断を受けている病気・病態が死因になるとは限らず、それに続発する疾患や潜在する病態の顕性化などにより診断に到る間もなく急激に死に到ることなども少なくない。さらに、危険性のある外科的処置等によってのみ救命できることもし
ばしばみられているが、人命救助を目的としたこれら措置によっても、その危険性ゆえに死の転機をとる例もないことではない。
このような場合、その死が担当医師にとって医学的に十分な合理性をもって経過の上で病死と説明できたとしても、自己の医療行為に関わるこの合理性の判断を当該医師に委ねることは適切でない。ここにおいて第三者医師(あるいは医師団)の見解を求め、第三者医師、また遺族を含め関係者(医療チームの一員等)がその死因の説明の合理性に疑義を持つ場合には、異状死・異状死体とすることが妥当である。ここにおける第三者医師はその診療に直接関与しなかった医師(あるいは医師団)とし、その当該病院医師であれ、医師会員であれ、あるいは遺族の指定するセカンド
オピニオン医師であれ差し支えはない。このようなシステムを各病院あるいは医療圏単位で構築することを提言する。
 

2) 医療事故再発防止と被害者救済
いわゆる突然死又は医療事故死、広く医療関連死の問題を総合的に解決するための第三者機関を設置し、医療関連死が発生した場合、その過誤・過失を問うことなく、この第三者機関に届け出ることとすべきである。この第三者機関は、単に異状死のみならず、医療行為に関連した重大な後遺症をも含めた広範な事例を収集するものとすべきであり、この上に立って医療事故の科学的分析と予防策樹立を図るものとする。このような構想は、すでに日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本医学学会の共同声明でも提唱されている。(資料6)
この第三者機関は、事例の集積と原因分析を通じ、医療事故の再発防止に資するとともに、医学的に公正な裁定を確保し、被害者側への有効で迅速な救済措置の実施のために裁判以外の紛争解決促進制度(ADR)の導入や労働者災害補償保険制度に類似した被害補償制度の構築などを
図るべきものとする。このような機関の設立は、医療行政担当機関、法曹界、医療機関、被害者側及び損害保険機関等の協力によって進められることが望ましい。今日、国民の医療に関して、このような第三者機関が存在しないことは、わが国医療体制の脆弱性を表すものであり、日本学術会議は第三者機関のあるべき姿について、さらなる総合的検討をなすとともに、関係機関に対し、その実現のためのイニシアティヴを強く期待し、ここに提言するものである。

 ===以上引用===

2012/03/27

【判決レビュー】病院内浴室で熱傷を負った高齢女性入院患者が死亡した事例(千葉地裁平成23年10月14日判決)

【ソース】
 平成21年(ワ)第1651号 損害賠償請求事件(医療)
【要点】
  • 両変形性膝関節症の手術目的で入院した当時79歳の女性が、平成20年11月6日(手術前日)午後2時に入浴のため浴室に入ったところ、約40分後に浴槽内で全身熱傷の状態で発見された。翌日死亡。
  • 浴室に入った時点で浴槽は空であった。発見時、給湯栓から55-56℃の湯が出たままとなっていた。 浴槽の栓は閉まっていなかったが、患者の体が排水口をふさいでおり、20-30cmの深さで湯が溜まっていた。
  • 患者に認知症はなく、判断力に問題はなかったが、患者は給湯栓を開くと55-56℃の湯が出ることを知らず、浴室まで付き添った看護師もそのことを説明していなかった。
  • 裁判所は、①給湯給水設備の使用方法及び熱傷を負うおそれのある熱湯が出ることを説明しなかった点、②浴室に入ってから30分が経過した後も安全確認を行わなかった点について病院の過失を認定した。
  • 被告は、午後3時38分の血液検査でAST、LDH、CPKの上昇が、午後6時5分にはトロポニンTの上昇が認められたこと等を理由として、急性心筋梗塞を発症して意識喪失に至って転倒し、その結果熱傷を負ったと主張したが、裁判所は、上記過失と熱傷による患者の死亡の因果関係を肯定した。
  • 被告は、患者の心筋梗塞発症の結果への寄与による過失相殺類推適用を主張したが、裁判所は採用せず。
  • 裁判所は、病院に対し、1925万円と遅延損害金の支払いを命令。内訳は慰謝料1600万円(近親者慰謝料含む)、葬儀費150万円、弁護士費用175万円。

【コメント】

こうした痛ましい事故の再発を防止するには、患者が利用する設備に、こうした熱湯の出る設備があること自体を改善する必要があると考えられます。本欄をお読みになった医療関係者の方には、自院内の浴室の給湯栓の状況をご確認いただければと思います。